2023年7月30日日曜日

ロボットが人になる時

 今年はAI元年と言っていいほど、このわずかな期間で誰もが日常的に人工知能に触れる機会が格段に増えた。小学生の夏休みの宿題から学術論文、議事録作成、オペレーター業務、翻訳、画像生成など本当に何でもこなす。一番難しいと言われた何気ない会話まで、時々とんでもない思い違いをして知ったかぶったりするが、常に中立で優しい。まぁそんな気にさせるように設定してあるだけなのだが。それだけ相手を怒らせる心配もないので気楽とも言えるが、人によっては適度に気を損ねたり拗ねたりしてくれた方がリアルと感じるかもしれない。

AI アプリ対応のコニュニケーションロボットも5万円くらいから買えるようで、78歳の母も興味津々。高価で本格的なものになると歌ったり踊ったり、顔認識して話しかけたり、以前の会話内容を覚えていて話題にしたり、技術の進歩を改めて感じた。ペットロボットも、より生き物らしく仕草や反応がかわいらしい。実用的なお掃除ロボットに話しかけるおばあちゃんがいるそうで、スーパーでせかせか掃除をしている姿が微笑ましく思わず声をかけたくなるらしい。

いよいよロボットと人が共に暮らす時がやってきた。手塚治虫『鉄腕アトム』「地球最大のロボット」の回を浦沢直樹がリメイクした作品『PLUTO』をまた読み返したくなる。最初の連載が2003年だからもう20年前の話になるが、今年10月配信開始のNetflixによるアニメ化で再び注目されそうだ。手塚治虫はアトム誕生を2003年という設定にしたから、その年がやってきても当分は無理だろうと思った。それが20年経ってここまでAIが利用されるようになったら、もう目の前に思えてくる。

『PLUTO』のアトムは見た目も感情も人間の男の子そっくりで、アイスクリームも美味しそうに食べる。人に寄り添い、人の真似をすることで感情が芽生えてくるという、人の心を持ち日々成長するロボットなのだ。ロボット開発といえば、何となく目指すところの先にアトムがいるような気がするのは漫画に影響された日本人的発想とも言われる。しかし現実には軍用無人機や無人戦車がAIを搭載し破壊に利用される日がそこまで来ていて、ロボットが人を殺す日も近い。今アトムがいてくれたら戦争を止めることができるだろうか。いつか生まれてきて、その優れた頭脳を人間のために使って欲しい。

アトムは一人息子を亡くした天馬博士の悲しみによって造られ、それでも満たされない感情が怒りや憎しみとなってぶつけられるという、可愛い姿に人間の負の感情を背負わされたロボットだ。お茶の水博士との出会いでプラスの感情を得るが、それが故に自ら人間の犠牲になることを選ぶ。アトムの最終回にテレビの前で泣いていた全国のよい子たちも今や60代後半、ロボットが進化しても人間は変われないままでいる。






どうせ死ぬんだから

 「どうせもうすぐ死ぬんだから」と老人特有の僻みっぽいことを口にしながら、「年寄りは嫌よねぇ。若い頃はお爺さんやお婆さんがなんでそんなこと言うんだろうってずっと思ってたわ」と母は自分で言って笑っている。続けて「それはね」となかなかに深い話をしてくれた。 長く生きてもやっぱりあの世...