2023年3月31日金曜日

幸せな消費生活

我が家は築38年、木質パネル接着工法の量産品で築15年のところを買って以来、あちこち手直しをしながら住んでいる。屋根葺き替え、外壁塗装2回、風呂取り替え、軒下の波板延長、玄関吹き抜け上小部屋増設、押し入れをトイレに改造、他二箇所のトイレリフォーム、外構作り替えなど...。

築40年近い古家の客観的な評価は固定資産税の通りでしかないが、雨風を凌ぎ、住む人たちに健康で安全な環境を提供した風格が備わってか、要は気に入っている。どこかへ引っ越す時は家ごと持っていきたい。アメリカ絵本の古典と言われるバートン(Virginia Lee Burton)の『ちいさいおうち』(The Little House 1942)の影響を受けてしまったか、家を擬人化することに抵抗がない。子供の為に安全柵を至る所に取り付けたネジ穴、ぶら下がって歪んだドアの蝶つがい、下手なDIYの痕跡など他人から見れば汚いだけだろう。とても丁寧に暮らしたとは言えないが、50年のうちに2組の夫婦が住み、4人の赤ん坊が大人になり、年寄りが残されたなら立派なおうちの歴史かなと思う。

もしモノに心があるなら、壊れるまで使い倒して欲しいと言わないだろうか。壊せという訳ではないが、気に入ったモノを古くなるまで使うことができれば、それは幸せな消費生活だと思う。地震のない米国東海岸で、石とレンガでできた家ならば移築をしてもまだ100年持つだろうが、自然災害の多い日本でこんな物語が描かれることはなかった。次の地震にどんな備えが有効なのか、何ができるのか、考えなければと思いつつ正直あまり気が進まない。壊れるまで使いたいと言うのもファンタジーであることを知っている。



2023年3月2日木曜日

終活と事前指示書

先日、高齢の母と実家近くの信用金庫で「将来の代理人」登録なるものをしてきた。これは母が認知症などで判断能力が衰えた場合、推定相続人から1人を事前に登録しておいて将来各種手続きの代行ができるようにするものだ。サービス開始に当たり、医師の診断書など判断能力が低下したことを示す書類と、本人と代理人の関係を証明する戸籍謄本などの提示が必要となる。キャッシュカードは発行されないから使い勝手のほどは分からないが、本人の預金を本人のために使う最終手段になるだろう。

一昨年前祖母が、昨年は父が、いずれも終末期医療に際して過剰な延命措置を施すことなく逝った。祖母は口頭で終末期になったら救急車は呼ばないで点滴も止めて欲しいと看護師に伝えていた。父の時は病院が延命措置をしないという家族の意思を面談で確認し書面にした。

回復の見込みのない終末期において、延命措置は患者と家族を苦しめるだけだと、母は兼ねてから言っている。自分の時はちゃんと書面にして残しておきたいそうだが、具体的に何も行動は起こしていない。私の本音を言えば、母が自分で信頼できる医師に相談して私の知らぬところで作成して欲しい。法的に効力はないし、執行する人間が作成に関われば本当に本人の意思か疑われることとなり、医療現場はさらに混乱するだろう。

元気な時に自分の終末期についての希望を書いておく「リビングウィル」(生前の意志)や尊厳死で調べていたら、「事前指示書」という名で多くのリーフレットやフォーマットが出回っていることを知った。ひな形をプリントして項目にチェックをし日付とサインを書けば出来上がりだ。それを民間団体・医療機関・行政が終活のすすめとしてさかんに配布提供している。手軽さと広報の派手さには何かしら違和感を覚える。

さらに検索するとやや古いがこんな記事が出てきた。

京都保険医新聞 » 第3003号 2017年6月10日  » 京都市は「終活」リーフの撤回・回収を

京都市保険福祉局が事前指示書を含むリーフレットを3万部作成して関連窓口で配布したことへの批判である。他にも障害者団体からの意見書などが提出され、これらを受けて区役所等で積極的な配布はしなくなったようだ。現在は京都市長寿すこやかセンター広報誌・発行物」で、国立長寿医療研究センターの「私の医療に対する希望(終末期になったとき)」を参考に作成した事前指示書のひな型がダウンロードできる。「終活」リーフレットは事前指示書について「公正証書として作成したものを医療機関に提出することもできる」と法的効力についても情報提供しており、各種相談窓口の紹介など内容は充実している。

厚生労働省が行なった『人生の最終段階における医療に関する意識調査』(平成29年度、平成24年度、平成19年度実施)によると一般国民の約7割が事前指示書の考え方に賛成しており、医療福祉従事者では7~8割とさらに高くなっている。調査結果を受けて厚労省は終末期医療のガイドライン作りや、一般向けに「人生会議」と題して啓蒙活動を行っている。

ふと思う。もう少し時間が経ったら、母は自分が生前の意思を残そうと思ったことを忘れてしまうのではないか。そうなったらあれこれ悩むこともないし、病院に呼ばれて同意書にサインするまでだ。その頃には終末期ガイドラインに沿って処置が行われ、人工呼吸器や人工栄養は高額のオプションになっているような気がする。たぶん。




どうせ死ぬんだから

 「どうせもうすぐ死ぬんだから」と老人特有の僻みっぽいことを口にしながら、「年寄りは嫌よねぇ。若い頃はお爺さんやお婆さんがなんでそんなこと言うんだろうってずっと思ってたわ」と母は自分で言って笑っている。続けて「それはね」となかなかに深い話をしてくれた。 長く生きてもやっぱりあの世...