2023年10月29日日曜日

カラオケでたどる昭和歌謡曲

 歌番組を見ない家庭で育ったけれども、学生になって時に平成に元号が変わる頃、共通の文化が必要になってくる。自動で選曲するレーザーディスクや通信のカラオケシステムが普及するとカラオケBOXが若い子の遊び場と化し、10年以上前の歌謡曲を受け狙いやらパロディとして歌う友人を目にして、私も遅ればせながら昭和歌謡曲をトレースすることとなる。

バブル景気は本当はもう終わりに差し掛かっていたけれど、相変わらず学生は馬鹿騒ぎしていて円高に乗じてバックパックひとつで世界中を旅する子も珍しくなかった。海外リゾートや秘境ツアーなどがすぐ手の届くところにあって、それほど危険も感じず特別うらやましいとも思わないという、今では考えられない平和ボケの時代であった。だから異国への憧れ的な歌も気楽な女子学生には笑えるパロディみたいなところがあって、ジュディオングの「エーゲ海のテーマ~魅せられて」やら久保田早紀の「異邦人」なんてゲラゲラ笑いながらものまねして歌ったものだ。

久保田早紀自身の手記(婦人公論2019)によれば、「異邦人」は最初からオリエンタルなイメージがあったわけではない。チーフプロデューサーが「エーゲ海の次はシルクロードブームが来る」と言い切り、中央線の車窓から見た駆け回る子供達の様子を描いた「白い朝」という元の曲には強烈なイントロが加えられ、歌詞は何度も書き直しを求められ、タイトルも全く意にそぐわない「異邦人」とされた。「プレイバックPart2」「木綿のハンカチーフ」「少女A」「待つわ」で知られるヒットメーカー萩田光雄のアレンジによるものだ。三洋電機のテレビのCMにアフガニスタンで撮影された映像と流れるとたちまちヒットチャート入り、さらにNHK特集で『シルクロード』が放映されると本当にシルクロードブームがやってきたそうだ。一つの歌謡曲が商業ベースに乗って拡散し、時代の象徴のように歌い継がれるようなことはもうないだろう。



「弾き」継がれる昭和歌謡曲

バンドでも目立つのはボーカルで、ライブではギターを下げていてもちょっとコードを鳴らすぐらいしかしていないものだ。まともに楽器を弾こうと思えば歌がおろそかになり、逆にちゃんと歌おうと思えば楽器演奏が控えめになるのは当たり前の話だろう。だからプロの楽器奏者はどうしても一人では地味な存在になる。

そんな中、大阪出身のウクレレ奏者の鈴木智貴さんは、レッスン動画はもちろん教本の出版・ライブ演奏でもメジャーになりつつある注目の人。音大でギターを学びウクレレに転向、ちょっと昔の曲のカバーアレンジも得意で歌うように演奏する。マイケルジャクソンメドレーが実に格好良く、音楽の詳しいことは分からないけれど本家のギターアレンジがのちに発表のオリジナル曲に一部オマージュされているように感じた。

その鈴木智貴さんが毎週のように挙げている演奏動画の最新は小林明子「恋に落ちて-Fall in love」。鈴木さんは30代の既婚男性でありながら「推し」の方々には王子と慕われるくらい可愛らしい容姿で、アロハ短パン姿でパイナップルジュースしか飲まない印象だけに、昭和歌謡曲はあまり似合わない。なのにあの時代のメロディーラインがとても魅力的に響くのだそうで、当時流行ったドラマなんて全然知らないから、先入観なしに素直に楽しめるのだろう。

さてこの「恋におちて」はTBS系ドラマ『金曜日の妻たちへⅢ』の主題歌で、1985年から足かけ2年ミリオンをマークしたという大変なヒット曲だ。当時クソ真面目で多感な中学生の私はドラマの内容を伝え聞くに、十把一絡げに不潔な印象を植え付けられた。いまだこの歌を聴くと酒タバコに口紅香水でジメジメと汚れたじゅうたんに座り込み、おっさんの本宅を想像しながら黒電話をさすっている化粧の崩れた中年女が出てくる有様だ。歌い出しのおさえた感じ、サビの部分の盛り上がりにしてもなかなか名曲なのだけど、湯川れいこの強烈な歌詞が全部さらっていってしまうのが残念といえば残念だ。



2023年10月28日土曜日

よみがえる昭和の歌謡曲

 先日テレビ番組で、女性シンガーのJUJUがコンサート会場を昭和のスナックに模して自らママに扮するという趣向のツアーを取材していた。JUJUは私より5歳ほど年下で、昭和的なものがどんどん消えていった世代だと思っていたが、幼稚園児の頃から頻繁にスナックに連れていかれおり、カウンターの隅に座って親たちがお酒やカラオケを楽しむのを見ていたという。そんな環境が個性的な人を育むのなら、特に害はないしむしろ英才教育とも言えなくもないが、むべなるかな歌も上手いが大酒飲みという。

昭和の後半はテレビ全盛期でチャンネルを回せば(回すのだ)ゴールデンタイムはたいてい歌番組で歌謡曲だった。我が家では歌番組を家族で見る習慣が無かったにも関わらず、結構知っている曲があるのはよほど大人も子供も歌謡曲に曝されていたということだろう。歌謡曲は当然ながら大人向けの歌なので、酒タバコ博打浮気不倫まみれで愚痴涙傷つけ合いの苦味に溢れた歌詞が連なる。恋愛ドラマは一方通行かすれ違いが基本だが、こちらは倫理的にアウトな男にばかり惹かれるM女がたくさん登場するので、甘えん坊でだらしない方がモテるかのような勘違い男を大量生産させたのではないだろうか。

この秋も谷村新司、もんたよしのりが逝ってしまった。今のヒット曲に比べるとダンスを意識しないので躍動感に欠けるが、昭和のヒット曲は何といっても歌詞にストーリー性があり当時の男女それぞれの恋愛観も含めてとても面白い。子供の頃には分からなかった意味が今になってじわじわ伝わってきて、当時あまりに幼かったので懐かしさがある訳ではないが、ひと世代前の遠い恋愛観や大人の世界がうらやましいような気持ちになる。そこはビートルズやカーペンターズでは良い子過ぎてジャズや黒人ブルースともちょっと違うのである。

歌謡曲とは少し離れるが、若い頃は全くいいと思わなかったのに最近は白髪うるわしい玉置浩二(安全地帯)のライブ動画を繰り返し見ている。歳をとって鈍感になった日常に、もはや妄想と体験が曖昧になった恋愛のジリジリヒリヒリ感が心地よい。結局大人味というのは苦み渋みエグさに行き着くのだろうか。





どうせ死ぬんだから

 「どうせもうすぐ死ぬんだから」と老人特有の僻みっぽいことを口にしながら、「年寄りは嫌よねぇ。若い頃はお爺さんやお婆さんがなんでそんなこと言うんだろうってずっと思ってたわ」と母は自分で言って笑っている。続けて「それはね」となかなかに深い話をしてくれた。 長く生きてもやっぱりあの世...