2021年9月3日金曜日

La vita è bella.

 祖母の住んでいたサービスつき高齢者住宅には1号館と2号館があって、ケアの必要度に応じて棲み分けることができる。はじめに祖母が入った2号館は食堂と別棟になっていてお風呂は共同、基本的には賃貸ワンルームマンションである。トイレとミニキッチンが付いていて、洗濯や買い物サービスも頼めるしホーム主催の花見や日帰り温泉ツアーなど盛り沢山だった。我が家はまず母方の祖母が入居して、数年経って父方の祖母も入居したからオーナーは息子の代になり20年以上ものお付合いになった。

母方の祖母は人見知りで知らない人とは喋らない性格だった。その祖母にどういう訳か大変ご執心な入居者がいて、オーナーを通じて娘の母に「お母さんとおつきあいさせて欲しい、結婚とかを考えているわけではないので」と熱心に言ってこられたとか。肝心の祖母は全然その気でないらしくロマンス成立に至らなかった。女性として祖母の何が良かったか知る由もないが、強いて言えば豊満体型でご飯を美味しそうに食べる姿が可愛かったからかもしれない。

祖母が亡くなって主人のいない部屋のチェックに行ったら、袋入りせんべいやキャラメルの箱がいくつも出てきて、つい最近まで買い物サービスで買ってきてもらっていたと分かった。そうした買い物は金銭出納帳にすべて書き入れられており、下着・タオル・ティッシュペーパーなどのストックのチェックは頻繁になされていた。新聞は読んでいたかは定かではないが、きちんと折り畳まれて紐で縛ってあった。

いよいよ老衰で体が利かなくなった時には看護スタッフに「入院はしたくない。延命措置はしないで欲しい。何かあっても救急車は呼ばないで」と伝えていたそうだ。なんでも母におんぶに抱っこの暮らしだったから性格も甘えん坊なのかと、祖母のことを誤解していた自分が少々恥ずかしくなる。自分の意思をはっきりとさせ、冷酷にも的確に人に指示を出す女主人の姿が浮かび上がった。時にそれに翻弄される家族がおり、またハートを射抜かれる男性もいたということ。La vita è bella.(1997 伊ロベルト・ベニーニ監督・脚本・主演より)

どうせ死ぬんだから

 「どうせもうすぐ死ぬんだから」と老人特有の僻みっぽいことを口にしながら、「年寄りは嫌よねぇ。若い頃はお爺さんやお婆さんがなんでそんなこと言うんだろうってずっと思ってたわ」と母は自分で言って笑っている。続けて「それはね」となかなかに深い話をしてくれた。 長く生きてもやっぱりあの世...