2021年3月13日土曜日

ようこそ古典文学

 国文学、特に古典文学に触れたのは14、5歳の頃で遅く感じられるかもしれないが、私の年代でよほど教養のあるご家庭で育ったのでなければそんなもんだと思う。忙しい学校生活、慣れない電車通学、流行りの音楽・ファッション・部活その他ごちゃごちゃにいっぺんに入ってきた情報の一つに過ぎない。中学3年から高校3年までみっちりと古文を教わった筈なのに、覚えているのは先生の黒のショール、グレイのまとめ髪と真っ赤な口紅だったりする。

教科書に取り上げられた作品の中でも一番難解なのは間違いなく源氏物語で、音読すれど誰が何を言っているのかも理解できず鑑賞どころではない。最近はありがたいことに現代語訳もより現代人に馴染む文体で読むことができるので、少しずつまた古典の世界に気持ちが向いている。

源氏物語はその成立期や複数作者説など研究対象としても存在感がある。衣の色合わせや香の合わせ方など優美な宮廷生活を知る一級史料であるし、光源氏の華やかな恋愛の数々を追えばエンタメ要素だって抜群だ。それだけにも留まらないのが源氏物語であり、汲めども尽きることのないミステリーの泉である。

源氏物語は紫上系と玉鬘系の長編ストーリー2つと他にいくつかの短編という構成になっている。(研究者によって呼び方や分類が異なる)紫上系では青年源氏が幼少で亡くした母の面影をもつ藤壺中宮、六条御息所、妻の葵上、夕顔などを経て理想の妻を手に入れるまでの話。また後半では文化的教養を発揮する一方で孤独に苦悩する紫上が描かれる。

玉鬘系では、夕顔の忘れ形見である玉鬘をめぐって源氏、冷泉帝、蛍兵部卿、髭黒の右大将が個性豊かに登場する。紫上系とほとんど被らない内容であることや、男性の心理がリアルに語られることから作者複数説やら男性説まで様々。男の物語と女の物語を一対にするつもりだったのか、単なるスピンオフストーリーなのか。

一説には紫式部は親しかった弟からいろいろと話を聞いて創作活動に活用したとかしないとか、その取材力と想像力には驚くばかりだ。式部自身の結婚は20代後半と遅く、翌年一女を儲けると2年ほどで死に別れている。夫とは齢が離れ他にも妻が多くいたから夫婦としての実体験には乏しい。一方、女童からの宮仕え、父の北陸・武生への赴任に同行、結婚出産死別と7〜8年のブランクを経て、中宮彰子への出仕とキャリア女性として見聞きした情報が創作に繋がった。

兎にも角にも限りなく遠くて近い不思議な物語としておいて、次回につなげよう。


どうせ死ぬんだから

 「どうせもうすぐ死ぬんだから」と老人特有の僻みっぽいことを口にしながら、「年寄りは嫌よねぇ。若い頃はお爺さんやお婆さんがなんでそんなこと言うんだろうってずっと思ってたわ」と母は自分で言って笑っている。続けて「それはね」となかなかに深い話をしてくれた。 長く生きてもやっぱりあの世...