2021年3月17日水曜日

危うい、きわどい、全部見せない。

 『源氏物語』は主人公、光源氏が普通でない恋愛に燃えてしまう話であり、初っ端からいきなり後宮スキャンダルなど不謹慎な内容にも関わらず発禁処分になったことがない。むしろ教養になると盛んに読み継がれ、絵巻が描かれ、嫁入り道具になり、能楽・歌舞伎でオマージュされ、美術工芸品の図柄などエンドレスである。

恋愛だけでなく、政界スキャンダルの風刺もちりばめられており、もし時の権力者である藤原道長が全ての巻を目にしていたら五十四帖全て残っていたかどうか疑問だ。あからさまには描かず注意深くボカシを入れ、都落ちした源氏は疑い晴れて出世街道に戻るといったありえないファンタジーに仕立てているが、道長の息のかかったサロンにいるからこそ安心して好きなことが書けたのかもしれない。

この時代になると『紫式部日記』、藤原実資の日記『小右記』、清少納言『枕草子』、『栄華物語』、『大鏡』と立場や目的・形態は違えども平安初期に比べると史料が圧倒的に多くなる。こうした記録によって当時の貴族の生活習慣や考え方の裏付けができるからこそ、後世の人が『源氏物語』を読めるようになったという。というのも『源氏物語』では「分かりきったことは描かない主義」が貫かれているからである。飲食や睦事はわざわざ書くほどのことでもなく、政治的背景についても「いずれの御時か」でどうぞ好きなようにお読みくださいと。

紫式部の私生活や宮仕えの様子を探ってみると、ストレスフルで味濃い女の人生が浮かび上がってくる。そこに光源氏のモデルとなった公達との恋愛があったと考える人も多い。

推理小説みたいで面白かった!






どうせ死ぬんだから

 「どうせもうすぐ死ぬんだから」と老人特有の僻みっぽいことを口にしながら、「年寄りは嫌よねぇ。若い頃はお爺さんやお婆さんがなんでそんなこと言うんだろうってずっと思ってたわ」と母は自分で言って笑っている。続けて「それはね」となかなかに深い話をしてくれた。 長く生きてもやっぱりあの世...