2021年3月20日土曜日

親子以上恋人未満

 源氏物語には様々な性格の女性が登場する。ネット上の「好きな登場人物ランキング」をいくつかみると上位に紫の上、朧月夜、明石の君あたりで、男性読者には夕顔も人気のようだ。時代の流れで多少好みが変化しても、こうした女子トークは実に1000年以上続いてきた。

物語の中でもうひとり存在感のある女性に玉鬘がいる。表向きには源氏の養女でありながら、事実上愛人と言っていい。帝に差し上げるか然るべき婿を探すか、後見として真剣に考えてやろうとする程、スケベ心が止まらない源氏。美人で頭もいいから他人にやるのが惜しくて堪らない。次々届く恋文をチェックして返信の内容に口出しするかと思えば、親の言うことはきくものだと衣を取り...このまま婿を通い婚にさせて時々会いたいな…などと考えるとはもはや変態レベル。嫌だわ困ったわと言いつつ源氏に惹かれてしまう辺りが玉鬘の人気を落としているのだろうか。

お蔭で帝を見ても兵部卿にしても全然ときめかないし、よりにもよってタイプでないマッチョ髭黒の右大将にさらわれる羽目に。髭黒はというと、この美人妻が予想に反して処女だったからもう有頂天、自邸を改装したりおめかししたり。北の方が嫉妬のあまり火の着いた火鉢の灰をぶっかけても気を遣うつもり全くなし。やがて身の程を知り運命に身を委ねて幸せをつかんでいく玉鬘の姿が好ましい。

玉鬘はやがて二男を儲け、源氏の四十歳の賀に家族で訪れる。髭黒の右大将が祝賀を取仕切る宴は盛大で、源氏ファミリーが最も華やかな時を迎える。また源氏と玉鬘は血縁こそないが、父娘として互いに心を通わせる特別な関係が続いていく。

玉鬘は田舎の中流家庭で育ち人間関係の苦労もそれなりに経験している設定だ。登場の時は既に成人しており、大人の女性として落ち着いていたから危ういことにならなかった。物語では珍しく平凡な幸せを得ただけでなく、源氏と魂で惹かれあう数少ない女性と捉えるのは深読みが過ぎるだろうか。



どうせ死ぬんだから

 「どうせもうすぐ死ぬんだから」と老人特有の僻みっぽいことを口にしながら、「年寄りは嫌よねぇ。若い頃はお爺さんやお婆さんがなんでそんなこと言うんだろうってずっと思ってたわ」と母は自分で言って笑っている。続けて「それはね」となかなかに深い話をしてくれた。 長く生きてもやっぱりあの世...