今朝の日曜版の山田詠美の連載『私のことだま漂流記』は良かった。いつものダラダラとした楽屋裏みたいな空気は相変わらずだが、表題通り一貫しているのは読む、書くという言葉へのこだわりである。どちらかというと質より量に重きを置くのか、酔っ払いのグダグダに似たけだるさに失望することも多い。ただ読むにも書くにもまずはボリュームが必要という考えが根底にあり、これが作風というならそれもアリだろうと思う。
多読と言えば今回も詠美サンが子供の頃お母さんの購読している婦人雑誌を愛読していた話から。付録のレシピ本の料理があまりに美味しそうで思わず写真をぺろっと舐めてしまったという。写真が良かったのもさることながら、その出来上がりの表現に強烈な食欲をそそられた少女は「文章は重要だ、と思った」のだ。
その婦人雑誌の記事には、料理のほかに裁縫や園芸さらに夜の夫婦生活指南まであって詠美サンはどれも隅々まで読んでいたのはもちろん、のちに男性誌の特集を見てもヘルマンヘッセ『車輪の下』の方がエロチックに思えたというオチもあり。冒頭で本能からくる欲望のひとつに読書欲があると言っているが、この人の場合あらゆる欲望が読書と創作に集結しているのだろう、散らかった楽屋裏で作家の本質を見たような気がした。