2020年5月11日月曜日

雨の夜に読む

和歌なんてよく分からないけど三夕の歌なら知ってる。あれでしょ秋の夕暮れ。春だけど。

赤ちゃんは泣き、認知症のおばあちゃんは徘徊する魔の時間帯。早い夕飯の片付けを済ませて窓を見ると、まだ空はほの明るかった。ぽつぽつと雨も降り出している。パンデミックは終焉と見切りをつけて外出自粛が緩和されようとしているニュースに、まるで不登校の子が新学期に怯えるような気持ちになっている。夜が更けるにしたがって雨は強くなってきた。

人恋しいが懐かしい人にアクセスする気になれない。元気でやっているなら今はそれ以上話すこともないから。ふと学生時代のルームメイトを思い出し、彼女の読んでいた本に今更ながら興味を持った。同い年とは思えぬ落ち着いた学生でミュージカル好きでお茶目な一面もあったが、自分は容姿に恵まれないから恋愛とか煩わしいし早く中年になりたいと言っていた。その実、繊細で感性は鋭く美的センスも高かった上、抜群に頭が良かったので大学の先生方のサロンにすいっと入っていき、学問まっしぐらではなくキュレーターの道を選んだ。そんな彼女の愛読書の一つが宮本輝の小説で、よく読みかけの文庫がぽんと置いてあったような気がする。ずっと趣味じゃないと思ってきたけど、こんな時こそとkindleで代表作「錦繍」を買って読んでみる。ヴェトナム語 英語 スペイン語 中国語 韓国語 フランス語 ヘブライ語 ロシア語に翻訳されて海外ファンも多いらしい。


背景は昭和60年頃。建設会社社長の娘亜紀と恋愛結婚、将来も約束された男。色街の女と心中未遂、女は死ぬ。一命を取り留めた男は妻から去り、10年後偶然に再会。手紙のやり取りの中で登場する人物の性格が色とりどりで、陰鬱になりがちな場面に明るさを添えている。特に亜紀の父が好ましく思えるのはこの歳になったからだろうか。

あらすじだけ追うと男の浮気が肯定的に描かれ、女の母性が美化される傾向が目立ち、令和の時代においては男の願望と一蹴されるかもしれないがそこは大目に見て欲しい。離婚から時間が経ちお互いを許し理解し互いの幸せを願うに至る、羨ましいほどの思いやりが汚れてしまうからである。

さて20歳そこらで秀才の彼女が「錦繍」を好んで読んだかは分からないが、もしそうだとしたら彼女はもう大人の恋愛を経験していたのだろう。同年代の男子など眼中になかったから、相手はかなり歳上の学者先生と見て相違ない。一緒に豊川悦司と竹ノ内豊どっちがいい男?とか言ってふざけてた時も、誰にも言えなくて報われない恋をしていた?想像したら涙が出てしまう。あくまでも憶測なので全く見当違い、失礼千万かもしれないのだけど。

どうせ死ぬんだから

 「どうせもうすぐ死ぬんだから」と老人特有の僻みっぽいことを口にしながら、「年寄りは嫌よねぇ。若い頃はお爺さんやお婆さんがなんでそんなこと言うんだろうってずっと思ってたわ」と母は自分で言って笑っている。続けて「それはね」となかなかに深い話をしてくれた。 長く生きてもやっぱりあの世...