肥料をやったりマルチング(敷き藁やポリ袋で地面を包む)する年もあるけれど、大抵は面倒で観賞用と思ってあまり期待していない。というのも虫や鳥に大半を食べられてしまうので、つぶれた苺の甘い匂いが立ち込める中、無事な実を這いつくばって探すのが苦痛だし、無農薬なのでダンゴムシやなめくじとも仲良くやらねばならぬ。味の方はまぁまぁいける、かな。
一般的な品種に一つだけ観賞用のワイルドストロベリーが混じっている。葉っぱの付き具合が食用と違っており花も実も小さい。食べられないことはないが種が多くて固くあまり甘くない。欧州ではウェッジウッドを筆頭に図案にも好んで用いられる。
思春期の女の子向け推薦図書に必ず挙がってくる、梨木香歩『西の魔女が死んだ』で中学生の まい と祖母が裏山で摘んでジャムにするのもこの品種。英国人の祖母が「Wild strawberries」とわざわざ言い換えるのも、一度かじってみれば日本の甘くてジューシーな苺とは全く違うから納得だ。
伴侶を亡くした悲しみの中、登った裏山に昔捨てられた畑があって、そこに野苺の花が咲いていた。それから歳月が過ぎ、「今年は まいが手伝ってくれました。」嬉しそうに丁寧にジャムを煮る。ふとしたことで学校に行けなくなった まい であったが、何を感じたろうか。
映画化もされたこの作品、控えめな演出で映像が美しい。