2020年9月10日木曜日

マリアージュ

 組み合わせの妙味の話。

フランス料理でワインとチーズなどに代表される味の組み合わせに、婚姻を意味する「マリアージュ」という言葉が使われる。円高還元や関税の見直しで日本でも外国産ワインが安価で手に入るようになり、国産ワインも質の高いものが作られるようになって久しい。

そのマリアージュmariageという言葉の中に仏語 mari (夫)が含まれている。その語源であるラテン語 maritus(夫、既婚男性、夫婦の)はさらにラテン語 mas(男性の)からきており、英語ではmale(男性の)になる。カタカナで書くと聖母マリアを想像させながら、実際には「男が嫁取りする」という実につまらない言葉であることがわかる。

料理の世界ではワインに合う食材を探すことも、またその逆もあるようで。組み合わせによって1+1=2以上になることも、またそれ以下になることも。お互いの良さを引き出すか、却って生臭さを引き出してしまうか、双方の個性が強いほど両極端な結果を出しそうに思う。

人のマリアージュもまた、どちらかが水みたいに個性がなく何にでもなれる性格であれば、何か物足りないなぁと思いながらも一生そこそこ幸せに行けるのかもしれない。一緒に暮らせているのは1+1=2で納得しているからだ。足りない部分は歌や文学のスパイスで補うことだってできる。仕事や子育て、趣味やスポーツでも構わない。

どんなに相性の良い運命の人に出会っても死に別れたり、独身で妙齢の男女として出会わなかったら問題も生じる。当事者だけが知る独特の世界観であろうと想像する。


幸福は甘くなかった

 福田恒存『私の幸福論』(ちくま文庫)を読む。平易な言葉で語られる、その内容は深く重厚で何度も読み返すことになると思った。昭和30〜31年にかけて講談社『若い女性』という雑誌に「幸福への手帖」と題して連載された。もう70年ほど前の文章だから、社会の事象は大きく変貌して日本人の生活...