2020年11月1日日曜日

人に頼る自立生活

『こんな夜更けにバナナかよ』(渡辺一史 2003年)を読んでいる。映画化もされて予告を見て気にはなっていたが、筋ジストロフィーの男性のわがままぶりを面白おかしく描いた小説かと思い長らく忘れていた。偶然書店で文庫版を手にして、脚色のないノンフィクションであることを知った。また著者の「障害」「障がい」「障碍」の表記に対する考えに共通する、本質を見極めようとする姿勢が気に入ってしまい、そのままレジに向かった。

難病患者でありながら施設から飛び出し、ボランティアとの自立生活を実現させてしまった人が本当にいたんだと、素直に驚いてしまう。筋ジス、鹿野靖明がそうした発想に至ったのは障害者運動に関わり、北欧やアメリカの「ノーマライゼーション」=生活条件をノーマルに の理念を学んだからであり、ただ自分に向き合っているだけではできなかった。

もちろん死にたくなったことなど何度もあると言うが、身体が効かなくなればなるほど精神はたくましくなり、鹿野のケア付き住宅に集うボランティア達も次々と何かを学んで成長していく。障害者運動で知り合った女性との結婚は破綻するし、人工呼吸器をつけた頃の体調や、経済的なことも安定とは程遠い。それでも鹿野はいつだって堂々とボランティアに指示を出す、やたら偉そうで人間臭いエッチなおじさんである。

共生による孤立しない自立生活、精神的な自立。言葉に置き換えても伝わらない時は伝わらない。具体から抽象へ、抽象から具体へ少しずつ本質に向かっていく作業が必要だ。大して役に立たなくても、お金にならなくても、やっぱり人生に学びがあれば豊かになるし、助けになってくれると思う。学びが鹿野を意味のある延命へと導いたと言っていい。

本の帯を見ると映画のブルーレイ&DVDの宣伝があって、主役の大泉洋と高畑充希に並んで数ヶ月前自殺した三浦春馬が笑っている。真面目な俳優だったと言うからこの本だって一読くらいはしたろうにと思うと残念でならない。

<追記>三浦春馬について付け加える。『僕のいた時間』(2014年フジテレビ)というドラマで難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)に悩み苦しみながらも懸命に生きる青年を演じている。本人の希望で企画が決まったというが、こうした経験も本人の生きる力になり得なかったということか。

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どうせ死ぬんだから

 「どうせもうすぐ死ぬんだから」と老人特有の僻みっぽいことを口にしながら、「年寄りは嫌よねぇ。若い頃はお爺さんやお婆さんがなんでそんなこと言うんだろうってずっと思ってたわ」と母は自分で言って笑っている。続けて「それはね」となかなかに深い話をしてくれた。 長く生きてもやっぱりあの世...