2020年12月5日土曜日

生まれ変わったら

 時は幕末。とある田舎に代々続く家があったが、後継に恵まれなかったため遠戚から夫婦養子を迎えた。祖父トシオの両親である。トシオの母は合計で13人の子を産み、8人目の男子であるトシオを末子の大叔父を出産する時に1年ほど長男夫婦に預けた。流石のおたあさん(そう呼ばせていたとか)も13人目の出産は身体に応えたと見え、トシオも長男夫婦に遊んでもらえば喜ぶと考えたというが。

1年経って連れ帰られたトシオが見たのは、おたあさまを占有している赤ん坊。ショックで完全にいじけてしまったのを見て、おたあさんはトシオが大人になっても「あの子を預けるんじゃなかった。目を離したのは間違いだった。」と悔やんでいたそうだ。

悪さをすると箒を持ってどこまでも走って追いかけてくるから、お陰で足が速くなったとか。真夏、高校の野球部でランニングの途中で家に立ち寄って、おたあさんが用意したスイカを食べて何食わぬ顔でランニングに戻ったとか。東京に出て勤め出した頃、熱を出して入院した時は夜行列車で上京してきて息子の容態を確認するや、せかせかと土産物を同室の人に配って田舎へ帰っていったとか。おたあさんの思い出話は愉快で温かい。

病気で何度も死にかけ、妻や息子を亡くし、零細企業の経営も苦労の多い人生だったに違いないが、明るくてとにかく生きることに貪欲な人だった。娘(私の母)には「ワシ、生まれ変わったら女になりたいねん。」と恥ずかしそうに打ち明けていたそうだ。なんでも、お洒落な洋服を着て高級レストランで食事したりオペラやコンサートに行きたいらしく、還暦を過ぎた父親が真面目な顔でいうので娘として非常に複雑だったとか。買うでもないのに婦人服売り場でマネキンをじーっと見ていたり、店員さんの着ているものを「それいいねー!」と言って困らせたり。「ワシ、電線よりアパレルやりたかったなぁ。」と言っていたから真意はそこなんだろう。そうだとしても、寂しがりで女性への憧れが強かった要因の一つは、おたあさんの影響だろうと確信している。

どうせ死ぬんだから

 「どうせもうすぐ死ぬんだから」と老人特有の僻みっぽいことを口にしながら、「年寄りは嫌よねぇ。若い頃はお爺さんやお婆さんがなんでそんなこと言うんだろうってずっと思ってたわ」と母は自分で言って笑っている。続けて「それはね」となかなかに深い話をしてくれた。 長く生きてもやっぱりあの世...