2022年4月7日木曜日

新薬開発のドラマ

 いつか観た映画『レナードの朝』(1990 アメリカ 原題:Awakenings)が先日NHKBSで放送されていた。脳炎後のパーキンソン症候群という、ほとんど植物人間状態の患者を研究熱心な医師が新薬で治療を試みる話である。Oliver Sacks(1933-2015)という英国人の神経医による実話の原著に基づいて、映画の脚本が創作されている。(以下ネタバレ注意)

1960年代、主人公の医師は開発されたばかりの新薬レボドパ(L-ドーパ)を使って30年間眠り続けた患者を覚醒させることに成功する。人生を取り戻し生きる喜びを感じるも束の間、薬の耐性により次第に量を増やしても効果が出なくなり、患者は再び元の状態に戻ってしまう。なんとかして希望を与えたい医師、高価な新薬を使うため寄付を惜しまない同僚や援助者、自分の姿を映像に撮って研究に役立てて欲しいという患者。今は広く使われている薬剤にも物語がきっとあるだろう。私の父も1970年代、抗うつ薬の治験で救われた一人と聞いている。

主演のロバート・デ・ニーロが役作りのために実際の患者の姿を観察し出来るだけ忠実に動きを再現した、と映画雑誌のコラムにあったのを覚えている。脳神経内科医も医療介護系学生に観て欲しいと言っているほどだから(c.f. 長谷川嘉哉先生のブログ)映画制作の真剣さが窺え、病気の苦しみや悲しみ、恋のせつなさが伝わってくる。偏見や絶望感と生きる神経病患者に本当に寄り添うことのできる医師はわずかしかいないし、滅多に会えないから著作が注目され映画にもなるのだろう。

最近、新型コロナの後遺症がなかなか治らない人がいると聞く。難病ではないが身体が元に戻らない辛さはなかなか理解してもらえないという。少しずつ研究が進んで治療薬が出てきているようだが道半ばであり、ウィルスも症状も薬の開発についても分からないことばかり。時代のせいか映画の治験は人体実験までいかなくともやや乱暴な感じだが、海外ではそんなものなのかもしれない。新型コロナのワクチンだって不完全のまま使っているのが現状で、副反応が強く出る人も少なくないのに安全だと太鼓判を押される。

この映画の症状については、原因の脳炎そのものの治療が進んだことで、現在ではここまで症状が悪化することは稀という。全体からすると僅かな数であっても、治らなかった辛い症状の人にも希望を与える医療が続いて欲しいと思う。それが実現できる平和な世界であって欲しいと願う。



どうせ死ぬんだから

 「どうせもうすぐ死ぬんだから」と老人特有の僻みっぽいことを口にしながら、「年寄りは嫌よねぇ。若い頃はお爺さんやお婆さんがなんでそんなこと言うんだろうってずっと思ってたわ」と母は自分で言って笑っている。続けて「それはね」となかなかに深い話をしてくれた。 長く生きてもやっぱりあの世...