2022年10月8日土曜日

Have some tea?

朝夕が肌寒くなると温かい飲み物が恋しくなる。子供の頃苦手だった番茶やほうじ茶も、かじかんだ手を湯呑みで温めながらすすると真冬のキリリとした空気がまた良い。庭木として植えられている茶の木も冬はコロンとした実をつけ、はぜると中から大きな種子が出てくる。お茶の収穫は茶摘みの歌で知られるように夏も近づく八十八夜、立春から数えて八十八日目あたりの新茶、梅雨前後の二番茶、晩夏の三番茶と3回ある。紅茶の名産地インドでは春から秋にかけ4回の収穫をするところが多いという。

ダージリン、アッサム、ウバなど紅茶好きなら産地ごとの味や香りの特徴をよくご存知と思う。いずれも地域の名前がつけられているが、特にダージリンは西ベンガル州ダージリン県とカリンポン県の特定地域で栽培される紅茶に限られ、春夏秋それぞれに違った味わいがあるらしい。他の茶にない特徴として、セカンドフラッシュ(夏摘み)は茶の木にとっては害虫のウンカやティリップスという小さい虫の襲来を受けた後の茶葉で、これが独特のマスカテルフレーバー(マスカット様の香り)を生み出す元となるという。

茶葉は虫に汁を吸われると黄変、必死に枯れまいとして人間でいえば抗体にあたるファイトアレキシンを作り出し、それが蜜の様な独特の香り成分なのだ。茶の栽培は1800年代半ば、英国人が森に覆われたこの地を避暑地にすると同時に、主に中国から持ち込んだ種や苗木を植えた。植民地時代・独立と厳しい歴史を経て紅茶は今もインドの主要な輸出品である。もちろん日本でも緑茶だけでなく和紅茶の開発も進んでいるが、まだ本場には今ひとつパンチに欠ける感がある。過酷な環境が妙なる香りを作るところあれば、ストレスを除き優しさを追求するところあり。元は同じ木から生まれた種子が東へ西へ旅をしてそれぞれに生きている。

逆境に負けまいとして強力なポリフェノールを作れば基本的に苦味が強くなるところだが、環境を恨むどころか満身創痍の身体から芳香を生み出すという茶の木。仏教発祥の地にふさわしい香り高き話である。丁寧に抽れてゆっくり頂きたい。




どうせ死ぬんだから

 「どうせもうすぐ死ぬんだから」と老人特有の僻みっぽいことを口にしながら、「年寄りは嫌よねぇ。若い頃はお爺さんやお婆さんがなんでそんなこと言うんだろうってずっと思ってたわ」と母は自分で言って笑っている。続けて「それはね」となかなかに深い話をしてくれた。 長く生きてもやっぱりあの世...