2021年12月10日金曜日

逸失利益算定の根拠

 2019年大阪市で聴覚支援学校に通う小学5年生の女児が交通事故で亡くなる事件があり、その慰謝料などを決める民事裁判についてのNHK特集番組を見た。クローズアップ現代+ いのちの格差 逸失利益が問いかけるもの 2021.12.09 被告側は「逸失利益は健常者の4割まで減額すべき」と主張、これを障害者差別であるとして公営社団法人の「大阪聴力障害者協会」が署名活動を開始し数日で1万件を上回る署名を集めた、といった内容だ。全体に障害者差別は許さないという観点で制作されていたように思う。

途中まで一緒に番組を見ていた夫が、「これを認めてしまうと何でも賠償金一律◯◯円にしろって話にならんか」という。画面には逸失利益算定基準の変遷チャートが出ていた。私が生まれた頃の専業主婦の逸失利益はゼロである。「保険屋は値切るのが商売やからな」という夫のコメントには同意した。民事裁判なのだからケースバイケースで慰謝料の相場はあってないのが当たり前。そこは弁護士の腕次第というところだろうか。

最近話題のこじれた裁判のいくつかで被害者や遺族の心情について議論されることが多い。この事件でも差別撲滅を掲げた団体が世論を巻き込んで遺族を担ぎ上げたケースかと思い、テレビを消した。しかし次の日になってどうも腑に落ちない点があってキーワード検索しているうちにこんな記事が出てきた。「聴覚障害者の逸失利益は健常者の4割で十分」という発言について2021.07.17(障害者ドットコム)

詳しくは書かないが、NHKの番組で気づかなかった点が(単に見落としたのかもしれないが)あったので書き留めておく。

逸失利益4割の根拠は昔のろう学校長が命名した「9歳の壁」=聴覚障害者の成長は9歳(程度の能力)で止まる、からきている。その算出は保険会社によるものと思われること。

第7回法廷には原告側の弁護団から聴覚障害を持つ弁護士が2人出廷したこと。被告側の保険会社が積極的に障害者採用に取り組んでいると自社サイトに掲載していたことへの矛盾を追及する方針。

被告の重機運転者は持病のてんかんを隠し虚偽の申請で免許を取得していた、等々。てんかんは脳神経の疾患だが法律上は精神障害に扱われる云々。

近年では障害者雇用の可能性を鑑みて司法判断にも変化が見られるという。重度知的障害の少年が福祉施設から行方不明になって死亡した事例では、損害賠償の額を健常者生涯賃金から算出し、裁判所は施設側にその3割の支払いを命じた。全盲の高校生が交通事故で重度障害を負った事例では逸失利益が一審では全労働者の平均賃金の7割としたところを、広島高裁は社会情勢を考慮し8割とした。

社会情勢を鑑みて逸失利益を従来より高く見積もる傾向にある一方、健常者と比較して1%の差額があっても差別であるという姿勢を崩さない弁護士もある。社会情勢が好転するなら高く見積もり、逆に暗転すれば低くしてよいものか、結論の出ない問題である。

コラムは「あまり被告側(雇用主や保険会社含む)を誹謗中傷しすぎると判決や和解額に響く恐れがあります。「社会的制裁を十分受けた」と判断されると被告への処分が甘くなってしまうので、過度な正義感は抑えて今後の進展を見守りましょう。」と冷静な言葉で締めくくられていた。

児童の登下校中に起こった交通事故を前に、単独で学校に通える子が障害があるという理由で賠償金を減額されるという事実に、多くの人がショックを受け抗議の署名をした。この事例だけを見てものを言うのが危険なのはわかっているが、ここは部外者の感情丸出しで言わせてもらおう。将来どんなサポートやテクノロジーで活躍できたかもしれない子供が命を奪われたのだから、賠償金は健常者と同等に払って欲しい。成長にかかる時間にも個人差があり可能性は無限ではないが、少なくとも既に就労年齢に達している人より望みがあるとは考えられないだろうか。子供の定義を何歳に設定するかは議論の余地があると思うが、その可能性を鑑みて障害を賠償金減額の理由にして欲しくない。

どうせ死ぬんだから

 「どうせもうすぐ死ぬんだから」と老人特有の僻みっぽいことを口にしながら、「年寄りは嫌よねぇ。若い頃はお爺さんやお婆さんがなんでそんなこと言うんだろうってずっと思ってたわ」と母は自分で言って笑っている。続けて「それはね」となかなかに深い話をしてくれた。 長く生きてもやっぱりあの世...